【9.19シンポ報告】
9.19続全共闘白書編纂委員会と地域共生ネットとの共催シンポ
団塊/全共闘世代の未来と課題 PARTU
〜当事者の視座から「2025年問題」を考える〜
物分かりのよい老人にならないと団塊世代は見捨てられる!?
3年後の「2025年問題」の核心を問う

医療介護の二大全国組織の統合にあわせて開催
かねてから案内してきた標記のシンポジウムが、予定どおり、9月19日の「敬老の日」に催された。
医療介護の二大老舗全国組織である「在宅ケアを支える診療所・市民全国ネットワーク」と「地域医療研究会」が合併、新たに「NPO地域共生を支える医療・介護・市民全国ネットワーク」(略称「地域共生ネット」)が設立され、「第1回全国の集い」が9月18日〜19日の2日間にわたって平塚で開催された。そのための医療介護関連企画の一つとして標記シンポジウムが、続全共闘白書編纂委員会との共催で実施された。
以下、概要を報告する。

テーマである「2025年問題」とは、3年後の2025年、終戦直後の4、5年間に生まれた700〜800万人ともいわれる団塊の世代が全員「後期高齢者」となり、その多くは医療・介護に大きな負荷をかけると予想される事案のことである。
大量に要介護者が増えることで社会保障体制がパンクするだけではない。そもそも団塊世代は1960年代のベトナム反戦や全共闘運動、あるいはヒッピーなどのサブカルチャーを生んだ“物言う世代”であり、なされるがままに素直に「介護」を受け入れるとは考えにくい。ここがおかしい、あそこをこうしろと要求するに決まっている。“一度起きてしまった子ども”である団塊・全共闘世代を寝かしつけることは容易ではない。

『続全共闘白書』回答者へのアンケートを素材に

シンポジウムの冒頭で基調報告者として登壇したのは、続全共闘白書編纂委員会の干場革治世話人。1947年生まれ、東大入学後学生運動に参加。佐藤首相訪米阻止闘争で逮捕・起訴され1年余収監。学習塾経営などを経て営業コンサルタントとして活動。現在要介護4の妻を介護中で、その体験談を語った。
これをうけて、メインイベントであるパネルディスカッションがスタートした。
まず、続全共闘白書編纂委員会の前田和男世話人より、事前に当事者である団塊・全共闘世代に実施されたアンケートの集計結果が報告された。

一つは、全共闘体験者にたいして生活実態から政治信条まで75項目のアンケート結果をまとめた『続全共闘白書』(情況出版2019年刊)のうちの介護関連アンケート。もう一つは、今回のシンポジウムに向け、『続全共闘白書』の全回答者にたいして行なった介護関連の追加アンケートである。
(なお、前述の干場世話人の当事者基調報告の元ネタとして「団塊爺さんのナガラ介護記」とアンケートは当日の資料として掲載・配布された★詳細はこちら
この団塊・全共闘世代の生の声を素材に、「2025年問題」の核心にせまるべく、いよいよ当事者の視座からの議論と問題提起が開始された。
パネリストは、上野千鶴子、久田恵、三好春樹、畑恒土の4氏。
ちなみに上野千鶴子氏は1948年富山県生まれの社会学者。入学した京都大学文学部で同期だった山ア博昭氏が羽田闘争で死亡、彼の追悼デモが契機となって学生運動に参加。
久田恵氏は1947年室蘭市生まれ。上智大学で学生運動に関わり中退。『フィリピーナを愛した男たち』で大宅ノンフィクション賞受賞。介護の現場を取材した著作でも知られる。
三好春樹氏は1950年広島県生まれ。広島修道高校で学生運動を主導したとして退学処分。介護職場で働く中で、介護者・被介護者ともに非人間的な扱いを受けている現実に直面、「生活とリハビリ研究所」を起ち上げ、それを根本から変えるべく活動をしている。
畑恒土氏は、1950年東京生まれ。あいち診療会理事長。浪人中にベトナム反戦運動に参加、早稲田大学文学部をへて昭和大学医学部へ進み、研修期間中に在宅医療に取り組む医師がいないことに気づき、その道をこころざす。
また、コーディネーターの二木啓孝氏は、1949年鹿児島県生まれ。明治大学農学部で全共闘運動に参加し除籍処分。長距離トラック運転手からフリーライターとなり、「日刊ゲンダイ」ニュース編集部長。同社退職後、ジャーナリストとして活動。
いずれも3年後の「2025年問題」を議論するにはうってつけの当事者たる団塊世代である。


上野千鶴子氏ら団塊・全共闘世代の当事者が問題提起
上野氏は、アンケートから見えてくるのは、かつて全共闘は「家族帝国主義粉砕」を叫びながら、それをつらぬいて“おひとりさま”もしくは“シングル・アゲイン”となったのは女性ばかり、男性の多くは妻依存の昭和型旧男類だったと指摘。また、日本の団塊・全共闘世代が、自世代だけでなく後世のためになした数少ない社会貢献のひとつは「介護保険制度」をつくったことだとした上で、「その改悪の動きがはじまっている」と警鐘を鳴らした。(詳細はhttps://wan.or.jp/article/show/10259
久田氏は両親の介護を通算20年体験、現在は那須の「サービス付き高齢者住宅」で“おひとりさま暮らし”をしながら、ヘルパーの資格を取得、高齢者コミュニティづくりに取り組んでいる現況を報告、家族に頼るのではなく、赤の他人の高齢者同士で共助関係をつくれれば「2025年問題」なんか怖くないと語った。
三好氏は、理学療法士となって老人介護に従事、「オムツ外し学会」を立ち上げ全国で「生活リハビリ講座」を主宰、介護に当たる人たちに人間性を重視し高齢者介護のあり方を伝えている立場から、「全共闘世代は大いに物を言うべし、言わないと大変な目にあう」と訴えた。
畑氏は、「医療者は患者の立場に立って考える。患者は自分の希望を遠慮なく話す」をモットーとしており、団塊・全共闘世代が「嫌われても主張すべきは主張する」には理解を示しつつも、介護医療者の立場からは、それはきわめて厳しいとした上で、介護保険制度と障碍者関連制度を比較、同じ福祉制度でありながら、前者では要介護度が上がると負担が増え、後者では障害度が高くなると負担は減るという制度の根本矛盾を指摘した(★PDF参照)。
刺激的な議論は予定を延長して2時間を超えたが、後ろに閉会式が控えていたために打ち切られた。

1年後の「第2回全国の集い」で“延長戦”へ
百人の会場が「満員御礼」で配布資料が不足する事態になった盛況にくわえ、参加者からは「興味深かった」「論点が明確になった」などの評価を得るいっぽうで、若い世代からは「2025年問題を団塊・全共闘世代は次世代に先送りせず、自世代でちゃんと解決してから逝ってほしい」との厳しい指摘もあった。
こうして「2025年問題」をめぐって論点は浮き彫りにはできたものの、時間の制約から、深掘りできなかった憾みが残った。
最後に、コーディネーターの二木啓孝氏から、「“延長戦”“再試合”を考えたい」との提案があり、議論は一年後に名古屋で開催される「地域共生ネット第2回全国の集い」でのシンポジウムに引き継がれることになった。

(文責:前田和男、続全共闘白書編纂委員会世話人)